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映画「日本国憲法」

(長いです。半分ずつでも読んでいただければ。)

日曜なので朝寝坊したいなあと思いつつも、頑張って起きて、映画「日本国憲法」を観に行ってきた。渋谷「ユーロスペース」は久しぶりだった。やはり中高年が多いが、20代、30代の若い人もいて、こういったタイトルの割には年齢層は広いように思った。映画終了後、日高六郎さん(社会学者・フランス在住)のトークもあって、とても充実した時間だった。朝寝坊しないで行ってよかった。「88才の老人に14時間の飛行機はやはりキツイです。」とにこやかな笑みと終始穏やかな口調。とても88には見えないが、映画よりかなりお年に見える。やはりかなりお疲れの様子。しかし、話すうちにドンドン声は大きく力がみなぎって伝えたいという迫力が伝わってくる。直接聴くことのインパクトは大きい。

050705_2159001 女の子の左目は事実を見つめる目、

光っている右目は、その事実から行動する意志。

勝手な解釈だけど…。

映画は、12人の内外の人たちにインタビューした内容をつなぎ構成されている。学者や専門家、実際に憲法の成立に携わった人たちなどだ。その構成がうまい。またユーモアもきいている。プロローグの部分で、小泉首相の国会演説が引用されていて思わずニヤリとしてしまった。

「国家としての意志が問われているんだと思います。日本国民の精神が試されているんだと思います。憲法をよく読んでいただきたい。」

小泉首相のいつもの短いメッセージが、皮肉にも生き生きと訴えかけてくる。まさにパロディだ。これほど適切な場所と時期に、これ以上明確で簡潔なメッセージはないだろう。そう、まさに「国家としての意志が問われている。」しかし、この言葉は誰よりもまず、首相あなたにそのままお返しします、しっかり勉強してください、と言いたい。

コッカスパニエル(愛犬)の頭をなでるブッシュ大統領、ブッシュとゴルフカートに嬉しそうに乗り込む小泉さん、何度もニュースで見た映像だ。苦笑しながら見ているうちに「あぁ、ホントに(彼は)ポチなんだぁ…」と悲しくなる。

さて、気づいたことや感想を書き出してみる。

①日本国憲法は、日本の憲法でありながら、もはや日本だけの憲法ではなくなっているというのがまず第一の感想だ。憲法第9条は世界が求める理念であり、その理念を世界で唯一盛り込まれた憲法の価値を、日本の外からの視点で見ることができた。

言い換えればこの9条の理念=戦力不保持・国の交戦権を認めない=が世界を救う唯一の道であるという考え方は、世界の英知の間では共通認識となってきていると言える。

②押しつけ憲法であるとかないとか、憲法の誕生は複雑な経緯でよくわからなかったが、少し整理することができた。

これについては、映画上映後の日高さんの話がとても参考になった。

A) 日本人がつくった憲法の草案は一つではなく、当時民間人の手によって多くの憲法草案が作られた。終戦の時、戦争が終わって新しい憲法が必要だという情報が人々に知れ渡るにつれ、さまざまな立場や政治的見解をもつ人たちによって、多くの憲法草案が作られた。たとえば戦争中に弾圧されていたグループ、民間人に学者を加えたグループ、弁護士のグループなど、保守から革新まで実にさまざまな憲法草案が作られたという。なかでも鈴木安蔵を中心とする「憲法研究会」は民主的な憲法の草案作りに奔走した。これらの草案はGHQ民政局にも提出され、マッカーサーら憲法草案に着手したアメリカ人達は目を通していた。

B) 一方、政府はそれとは別に第一級の専門家を集めて憲法草案づくりを命じた(憲法調査委員会)。が、当時出された数ある草案の中でこの政府案が最も保守的であった。あまりに明治憲法の焼き直し、天皇主権の中央集権的なものだった。そのため、政府案はGHQ民政局に提出したが拒否されてしまった。だからこのことを持って、日本の考え方は憲法に盛り込まれなかったと考えるのは間違いだ。拒否された案は最も保守的な立憲君主的な草案だったのだ。

(感想)

政府案のこうした保守性にもビックリするが、もっと驚いたのは、政府はいっさい民間人が作った草案はどれ一つとして読んでいなかったと聞いたことだ。なぜなら民間案を軽蔑していたからだという。(この政府の姿勢「民間案を軽蔑して、読んでいなかったこと」を、主権在民の意識がないことの顕著な例として、日高さんは、時間オーバーで終了を催促される中、話の最後に声を大にして強調していた。)

私が一番衝撃を受けたところはこのことだ。そして、これによって現在も政府が国民世論に耳を貸さない姿勢が妙に納得できた。戦争当時はもちろんのこと、戦後も、その後もずっと現在に至るまで、国民が軽視されている状態が続いている。<悪い伝統>がず~っと続いている。ということは政府の体質は何も当時と代わっていない。とすればホントにこのままでは危ないなあといっそう危機感を持った。

C) 政府案を見て、これではいつまで待っても望ましい案は出てこないと判断した民政局(マッカーサー)が、指示して部下に草案をつくらせた。そして民政局は政府とは逆に、提出された民間からの草案には全部目を通していたという。

マッカーサーが政府案を拒否して、独自に憲法草案をつくったことによって、逆に民間人たちがつくった草案の理念がそこに盛り込まれたともいえる。政府案を採用されていたら、時代に逆行する憲法になっていた可能性の方が高い。

D)日本は当時、世界中からアジアに覇権をふるった軍国主義の暴力的で危険な国と思われていた。諸外国からどう見られていたかというこの認識は大事なところだと思う。日本国内ではいまだに論争があるが、15年戦争は侵略戦争であったという認識はヨーロッパでは当然のことだという(=日高)。

E)マッカーサーは武力の歯止めのための憲法をつくろうとした。軍人ほど戦場の悲惨を知り抜いている。マッカーサーが軍人であったことも草案の性格に反映している

F)普通の国になれという、「普通」は暴力で解決する国になれ、ということ。なぜ「普通の国」になる必要があるのか。

G)今日まで改正しなかったのは、日本人がそれでいいと認めていたから。マッカーサーはむしろ、制定後は日本人が自分で改正したかったら改正して日本人の手で憲法をつくってほしいと望んでいた。今日まで改正しないできたのは日本人の選択だった。押しつけられてイヤだと思っていたら変えていたはずである。

         ……………………………………………………………

ほかに、本当に恐いと思ったのは、ポツダム宣言受諾に至るまでの検討会議にしても、国会議員も大学教授も枢密院も参加しないでほんのわずかな人たちだけで秘密裏に検討しており、一歩間違えば本当に一億玉砕だったと日高さんが語ったときだ。背筋がゾッとした。

宣言受諾まで一ヶ月をだらだらと伸ばしたことで、戦場の被害は増え、それでもまだ決められなくて受諾を渋っているうちに原爆があいついで投下され、やむなく受諾するに至った。こうした経緯を考えると、一部海外の論調にある、原爆投下がなかったらさらに戦争被害は拡大していたとして原爆投下を認める言い方も、一概に否定できなくなってしまう。国民のことを考えない政府ほど恐ろしいものはないと思う。そうした政府に歯止めを掛けるためにあるのが憲法だ。

考えてみると、私たちは学校でもどこでも、憲法についても歴史についても自分の生活と結びつけて教わってこなかった。私もほとんど肝心なことは何も知らなかった。受験勉強の歴史の暗記は、考えるためにはほとんど役に立っていない。身近なことと結びつかない知識だから生きていなかった。今になってやっと、ほんのほんの少しだけ、知り始めている。

      ………………………………………………………………

その時代を実際に生きてきた人の言葉は貴重だ。日高さんの著書「戦争のなかで考えたこと」、ぜひ読んでみたい。『「映画日本国憲法」読本』(1400円・映画館でも販売)がおすすめ。シナリオ、参考資料、およびインタビューのカットされた部分が載っていてなかなか充実。

なぜ私は憲法というとこんなに熱くなってしまうのだろう。我ながら不思議だ。中学の時、初めて前文を読んで、「日本ってこんなに素晴らしい国なんだ!」と誇らしかった。その誇らしいものが、踏みつけにされてぼろくそに言われていることが、がまんならないし悔しい。そして、亡くなった人や人生を狂わされてしまった人たち(ほとんど国民の大部分)の無念の思いが背中を押すのかもしれない。身近な両親や祖父母たちの、平和な世界を望む悲願が私に語りかけているのかもしれない。なぜかはわからない。でも、前文を読むと「人間ていいな」と希望を持てる。きっとそのことが私は嬉しいのだと思う。だから守りたい。そして育てていきたい。

最後に、帰り際、ジャン・ユンカーマン監督(日本在住・日本語ペラペラの方)と少しお話しした。「憲法問題の解決には、同時に民主主義を育てていく必要がある。」「憲法問題を政治問題にしないで、日常の生活の問題として考えていく。」ことなど話された。日高さんが車椅子を押されてエレベーターに乗られるところだったので、追いかけていって講演のお礼と「お元気でご活躍を!」と握手。

プロデューサー山上徹二郎さんが本のまえがきで書いている。氏自身が知識人の明快な発言を取材し、映画を作る過程で脱力感から救われたように、この映画を通して「連帯」という言葉を思いだしてほしいと。「平和を守ろうと行動する人たちを支え勇気づけるのは、何よりも人々の連帯感だと思います。」

長かったです。丸2日がかりでした。最後まで読んでくださってありがとう。

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コメント

さくら子さん、日高さんのお話が聞けてほんとうによかったですね。ユーロスペースの熱気が伝わってきます。やっぱり、映画館で観るべきでした(^-^;
また、機会があったら、イヴェントにも参加したいと思います、よろしく~☆

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DVDを購入して、はじめて観たのは、通してではなく、途切れ途切れ、だいぶ前になります。今回見直して、だいぶ見落としていたことに気付きました。 そのことに気付かせてくださったさくら子さんに感謝。 冒頭のソウルフラワーユニオンの『戦火のかなた』はいつ聴いてもいいですね。映画への期待はいっそう高まります。asin:B0000A125Z:image はじめてみたときの感想として、印象的だったことは日本国憲法が日本国民にとってもつ意義だけではなく、国際社会、とくに近隣アジア諸国に対して意義があるということ。こ... [続きを読む]

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